好きなことを書きます。
【mixiから転載】
今週も、横光利一著 『雪解(ゆきげ)』を読んでいきます。
今週は栄子が卓二の部屋に来るようになってからの様子です。
さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
 卓二は家へ着いて包を投げ、ゲートルを脱(はず)して
 着物を着替えようとしていると
 いつの間にか、栄子が来て縁側のふちに膝をつけたまま
 黙って立って笑っていた。
 卓二はひやりとすると
 「ああ、驚いた」と思わずいった。
 「新聞見せてよ」
 栄子は畳の上に拡がっていた新聞を
 腹這いになって引きよせて来ながら
 「今日の譲(ゆずる)、どうなったかしら」といった。
 
 譲というのは新聞に連載されている小説の
 小さな主人公の名であるが
 卓二は小説など読んだことがなかったから
 譲というのはどういう人かと栄子に訊ねた。
 栄子は譲というのは少年で
 継母に虐められて家出をしたのだが
 今日は雪の中へ迷い込んでしまって
 見つからなくなったのだといって新聞を読みはじめた。
 今日の部分をもうどっかで読んで来て知っているのに
 それをもう一度読む栄子を卓二は熱心なものだと感心した。

 ピンポンを部屋に置くようになってからは
 栄子は昼間来なくて今度は夜になって来るようになった。
 来るときには懐へいつも教科書を入れて来て
 母にはそれを教えてもらいに行くのだといってあるというのだった。
 そのくせ栄子は来ても少しも勉強をせずに帰っていった。

 卓二が英語の勉強でもしていると
 急に自分もするのだといってその横にぴたりと坐って
 上目づかいに卓二を見てくつくつ笑ったり
 筆入を開けたり閉めたりしてみたり、絶えず動いていて
 結局栄子も卓二もふたりとも何もできぬじまいで
 またピンポンをはじめることになるのだった。
 ピンポンも夢中になって来ると栄子をピンポン台の雨戸に載せ
 それを三谷と卓二で御輿(みこし)のようにかつぎ廻っては
 みなで笑い崩れて嬉しがった。
 
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
彼女も卓二のことが気になっているようです。
じゃなきゃ、卓二の横にぴたりと坐るなんてことはしないでしょ。
ただ遊びに来ているようにも思えるし
もうちょっと読み進めていかなきゃ分からないかな。

【2012/05/15 05:22】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、横光利一著 『雪解(ゆきげ)』を読んでいきます。
今回はあの少女が何者なのかが明らかになります。
さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
 卓二の部屋からは二、三十間の空地を越して裏に二軒の家が見えた。
 少女が鋤を借りに来た次の朝
 卓二が自分の部屋で登校の用意のシャツを着ていると
 草叢(くさむら)の中に
 寝過ごしたらしい例の少女が袴をはいたまま立っていて
 咲きはじめたコスモスの花を眠そうにぼんやりと眺めていた。
 卓二は少女の家はすぐ裏の家だったのかと驚きながら見ていた。
 卓二は少女の鮮かな血色と大きな眼を遠くからつくづくと見ながら
 去年の春大通で少女を見たときよりも
 いっそう今朝の少女は美しいと思った。

 ある日の夕食後、卓二と三谷が縁側に出てみると
 ひょっこり出し抜けに少女が来て
 二人の前を通って表のほうへ出ていった。
 すると今まで横で読書をしていた三谷がひょっこり頭を上げると
 「さっき向うへいった女の子は
  あれは俺の許婚(いいなずけ)だが、俺は嫌いなんだ」といった。
 「嘘をいえ」と強く卓二はいい返した。
 すると、三谷はうす笑いをもらしながら
 あの少女の家は自分の家の借家で、少女には父親が死んでいないため
 少女の母と三谷の親たちがそんな約束を勝手にしていたのだと話した。

 卓二は少女のことが気にかかってならない自分を
 もう三谷に気附かれているのだとは思ったが
 その少女の名前は何んというのかと訊ねてみた。
 「阿波栄子というんだ。パパは陸軍大佐だったんだが
  演習中に死んだので恩給がたくさん来るから
  ああして遊んでいられるんだ」
 三谷はそういうと
 「ほんとだぜ、俺の許婚」といって卓二の顔を見ながらにやにやした。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
彼女は卓二の家の近くに住んでたんだね。
三谷は、卓二が
彼女のことが気になってしょうがないことを知って、からかっています。
もうバレバレだって。

【2012/05/08 05:13】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週から、横光利一著 『雪解(ゆきげ)』 という作品を読んでいきます。
先週までの“お菊井戸の伝説”が、あまりにも生々しい内容だったので
ちょっと“ひと息つける”ものを読んでいかないとね。
今日はその導入部です。さっそく見ていきます。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
 卓二の少年期ももうそろそろ終りに近づいていた日のころである。
 彼は城を後にした町の通を歩いていくと
 突然十二、三になる一人の少女が彼の傍を脱兎のごとく駆けぬけて
 急にくるりとこちらを向くと腰を折って笑いだした。
 彼はそれがあまり不意の出来事だったので
 その少女の動作を思わずじっと眺めずにはおられなかった。
 たぶん少女は後から追っかけてきた仲間の者をからかうつもりらしく
 卓二が傍まで歩きつづけていっても
 まだなかなか笑いをとめそうにもなかった。
 
 彼はそれまで町を歩いていて
 その少女ほど美しいと思った少女を見たことがなかった。
 彼女は少女らしいという少女ではなく
 十二、三でもう美しい大人の表情をしていた。

 ある日の夕暮、彼は庭園の中央にある井戸の切石に腰を降ろして
 遊びに来ていた津山と並んで涼んでいると
 そこへ裏のほうから静かに落ち着いた十三、四になる少女が来た。
 彼女は、このあたりに
 鋤(すき)が一つ転がっているのを見たことがあるが
 植木を植えたいのだからあったらその鋤を貸してほしいと頼んだ。
 卓二はふとその少女を見ると
 それは一年も前に彼を驚かした例の美しい少女だった。
 少女は前には転がるように大道の中央で華やかに笑っていたのに
 それが今度は夕暮の中で探し物が見つからなくてしおしおしていたので
 しばらくは彼もその少女があのときの少女かどうかと
 もう一度考え直してみたほどに違って見えた。
   
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
これだけじゃ、どんな話かなんて分からないよね。
卓二と少女がどんな人物かも分からないし。
来週も続けて見ていきましょう。

【2012/05/01 05:13】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、舟橋聖一著『白鷺記』から
“お菊井戸の伝説”を見てきましたが、今週が最後です。
今日は、その“オチ”の部分です。さっそく見ていきます。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 白鷺城(はくろじょう)の見物を終ったわたしたちは
 街の古い料亭で夕食を食べたあと
 わたしは別室で、按摩(あんま)を呼んでもらった。
 やがて、あらわれた人は
 按摩というには、垢ぬけた身ぎれいな婦人で
 背格好もスラリとしている。年のころは三十三、四か。

 少し話がくだけてきて、四方山話(よもやまばなし)になったが
 このお静さんという女按摩の大祖母さまは
 姫路城主酒井忠邦夫人の奥女中祐筆(ゆうひつ)をつとめ
 城中東屋敷に住んだこともあるという。

 「その大祖母さまから語りつぎ聞きつぎました話では
  お菊はあの井戸へは、はいっていないそうでございますよ」
 「へえ」
 「入っているのは、岡山から忍びこんでいた女間者の
  紅桜という女で、その後、お菊は若い城主さまの愛をうけて
  御台様(みだいさま)になったとかって・・・」
 「それはおもしろいな。お菊のハッピー・エンドじゃないか。
  皿はどうしたの」
 「唐にしきの具足皿は、重代の宝で
  お菊が与かっている十枚のうち
  紅蘇芳(べにすおう)のそれが一枚紛失したことは事実でした。
  それでお芝居や物語にあるようなむごい折檻がございまして
  お菊は裸にされて、皿倉の棟に
  三日三晩、吊るされるような目にもあいましたが
  実は紅桜が、お菊の知らぬ間に、一枚かくしておいたのを
  あの井戸へ投げこもうとするところを
  城主さまに見つかって、黒白が逆転し
  紅桜のほうが、お手討になったのだそうでございますよ」

 「それが実説か」
 「でも、実説かどうかは、申上げられませんわ。
  大祖母さまは御台様の祐筆ですから
  碑史(ひし)小説の造詣もあったと思います。
  お菊井戸の伝説だって、むろん誰かさんの創作でございましょう」
 「同感だね。世の中に、実説なんてものは
  なかなか、存在しないものだ」
  
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
お菊は殺されたわけではなかった・・・かもしれない。
それもハッピーエンドだったかも。
なんかホッとしませんか?

【2012/04/24 05:31】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、舟橋聖一著『白鷺記』から
“お菊井戸の伝説”を見ていきます。
お菊への拷問が続いています。
彼女はどうなったか。そして鉄山や弾四郎はどうなったか。
今日はちょっと長いですが、さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 鉄山は、はじめはどこかで、助け舟を出すつもりで見物していたが
 だんだんにお菊の面相が変わってくると
 いっそ殺すところまで、責めさせてみようという気になった。

 お菊は否定する。
 するとますます、烈しい苔(むち)がふってくる。
 女は失神する。
 するとまた、水がぶっかけられる。
 そのくり返しの果て、苦しまぎれ、お菊は口を割った。
 「たしかに、お皿は小寺の殿さまのお手へ・・・」
 「やっぱり、そうであったか」
 鉄山はもう助けられないと思った。
 「菊をば、嬲切(なぶりぎ)りに切れ」
 と命じた。弾四郎は待っていましたとばかり、お菊殺しにかかった。
 一太刀。
 二太刀。
 と、切りこまざくように、切ったり突いたりするうち
 お菊はあられもなくのたうち廻りながら、虫の息になった。

 いったん動かなくなったのを、抱きおこした弾四郎は
 「殿、止(とど)めを」
 女の顔を持って、鉄山のほうへねじむけた。
 「菊、不貞者め。思い知ったか」
 そういって、白い咽喉を抉(えぐ)った。
 美しかった女の断末魔は、血だらけ泥だらけの骸(むくろ)に化した。
 「殿、死骸は?」
 「井戸へ落とせ」
 「ははッ」
 亀居丸外の古井戸まで、女の死体が運ばれてゆき、そこで処分された。
 と同時に、サディスト青山鉄山は
 急に不安に襲われて、悪寒に悩んだ・・・。

 弾四郎は出征した。
 が、戦いは不利であった。平福城の平福平内はこのことあるを知って
 小寺の重臣衣笠らと通牒していたからである。
 弾四郎の軍は、さんざんに打ち破られ
 這う這うの態(てい)で、姫路城へ引き返したが
 その時すでに、衣笠の先頭部隊は、城を幾重にも包囲した。

 籠城がはじまった。
 すると、その古井戸の中から、殺されたお菊の声が聞こえると
 言いだす者があって、城中の不安をかり立てた。
 「一枚、二枚、三枚・・・」
 鉄山はそれを聞くと、また慄(ふる)えだした。
 さっそく、井戸を埋めてしまえと下知したが
 その実行の前に、落城が迫っていた。
 本丸の板敷を血に染めて、鉄山も弾四郎も死におくれた身体を
 寄手(よせて)の総大将衣笠靭負介元信の太刀で、斬りたおされた。

 亡霊お菊の皿をかぞえる声は、その後も止まなかったが
 やがて、於菊大明神として、十二所神社に祀られてからは
 お菊虫に生まれ変わって、その声もやんだと言う。
 これは、於菊大明神由来記ともいうべき十二所神社所蔵
 「播州皿屋敷実録」の記載するところだ。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
これで播州皿屋敷の話は終わりですが、前にも書いたとおり
この小説には“オチ”が用意されてるんよ。
それは来週といたします。

【追記】
次回でこの作品の読書会は終わりです。
ちょっと生々しい内容だったので
次はいわゆる“胸キュン”な作品を選びました。
横光利一著『雪解(ゆきげ)』という作品です。
よかったらお付き合いくださいね。

【2012/04/17 05:25】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、舟橋聖一著『白鷺記』から
“お菊井戸の伝説”を見ていきます。
弾四郎が所望した“紅蘇芳(べにすおう)”の皿をお菊が取りに行きました。
その後どうなったか、さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 お菊は、亀井丸の皿倉まで、皿櫃(さらびつ)を取りにゆき
 十枚入りの櫃ごと、運んできた。
 「一枚、二枚、三枚・・・」
 と数えてゆく。
 「四枚、五枚、六枚」
 その辺までは順調だった。
 「七枚、八枚」
 と読みあげたとき、お菊の顔には動揺がおこった。
 「九枚しかありませぬ」
 「何?九枚」
 「しかも、紅蘇芳が足りませぬ」
 「面妖(めんよう)な」
 鉄山は怒気を発した。弾四郎は、すかさず
 「こりゃお菊どのが、一枚を小寺則職(のりもと)の家島城へ
  密かに運びしに相違ない」
 実際は、弾四郎が一枚を隠しておいたのである。

 お菊は、こんなことから、家島城に亡命している則職に
 迷惑があってはならないと思って
 皿の紛失と小寺家との関係はないことを弁明した。
 「家島へ運びしにあらざれば、お菊が所持しているのであろう」
 と言うことになって、彼女は肌をあらためられた。
 弾四郎が隠しているのだから、お菊はもっているはずがない。
 それなのに、弾四郎は鉄山の前で、お菊を裸にしてあらためた。

 お菊の身体には、何ンにもなかった。
 それでは、どこかへ隠したのだろうと言って、折檻が行われた。
 女が気を失ってたおれると、水をぶっかけては、また責めた。
 お菊の五体からは、血の汗がにじみ出たと言われるほどの
 ひどい拷問だった。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
これはひどい!
最初から弾四郎は、お菊を罠にハメるために紅蘇芳の皿を隠してたんよ。
お菊はどうなっちゃうの?(知ってるけど)
来週をお楽しみに。

【2012/04/10 05:27】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、舟橋聖一著『白鷺記』から
“お菊井戸の伝説”を見ていきます。
とうとう、お菊の悲劇が始まります。さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 町坪(ちょうのつぼ)弾四郎が御大将で
 平福城攻撃の火蓋を切る前の晩、姫路城では
 出陣の門出を祝うための、月見の宴が催されていた。

 弾四郎は宴半ばに、車門内の下屋敷へ戻って、お菊を呼び
 「しからば、お菊。明日は早朝出陣の予定だから
 今夜はここで、しばし別れを惜しもう・・・臥床(ふしど)へまいれ」
 と促すが、お菊は宴のさ中であり、そういう気持ちにはなれないので
 きびしく弾四郎の手をはねのける。
 彼はまた、力ずくでと挑みかかるが
 お菊は危ないところを、跣足(はだし)で逃げた。
 弾四郎はおもしろくなくてたまらない。
 一度許した女が、なぜ拒むのかもわからない。
 仕方なしに、再び本丸へ上ってゆくと
 跣足で逃げたはずのお菊が
 鉄山のそばに寄添っているので、カッとなった。

 「弾四郎。出陣の音頭をとって、盃を乾(ほ)そう・・・」
 「殿にお願いがございます」
 「何ンだ」
 「どうせ、戴くなら、お家重代(じゅうだい)のお宝の皿で呑み乾したい」
 「何に、重代の皿」
 「あの唐にしき、紅蘇芳(すおう)のお皿で・・・
  叶(かな)いますなら、お菊どののお酌をもって・・・」
 「よかろう・・・菊、出して参れ」

 これは、赤松家から小寺家へ伝わり
 さらに鉄山が横領した十枚の皿である。
    
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
十枚の皿が出てきました。
それは町坪弾四郎が所望したもので
それも「紅蘇芳」と指定して。
何かカラクリがあるような感じがします。
このあと、お菊はどうなったのか、来週をお楽しみに。

【2012/04/03 05:22】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、舟橋聖一著『白鷺記』から
“お菊井戸の伝説”を見ていきます。
周囲の男たちに言い寄られていたお菊は、その後どうなったか。
さっそく見ていきます。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 青山鉄山が浦上村宗に招かれて、置塩城に出かけた晩
 とうとう弾四郎はお菊に迫って、情交をとげてしまった。
 お菊も衣笠以来、これで四人目の男だが
 弾四郎に汚されたときほど、口惜(くや)しいと思ったことはない。
 一晩中枕を濡らして泣いたせいで、帰城した鉄山に怪しまれた。
 お菊は、平福平内に言いよられたと、虚偽の自白をした。

 弾四郎は言った。
 「殿のお留守中に、平内はお菊さまを拐(かどわか)そうとして
  近習たちにまで手を廻したようでござる。
  拙者にも、黄白(こうはく)をまこうとするから
  ことわってやりました」
 これは全部虚言(うそ)でもない。
 平内は何ンとかして、お菊を平福城へ連れこみ
 存分に弄(もてあそ)んだ上で、人質にし
 鉄山と和を結ぶときの有利な条件にしようと企んでいたから
 姫路城中の要所要所には、しかるべく袖の下を使っていたのである。

 「弾四郎、いかがいたそう」
 「それはきまっております。
  この際、お菊さまがそう言ったのなら、それに違いありませんから
  一挙に平福城を屠(ほふ)って、平内の首を獄門にかけることです」
 「では其方(そのほう)を攻手の御大将にしよう」
 「やりましょう。日ごろから、平内という男は言語道断な奴です。
  その代り、うまくいって、平内の首を刎(は)ねたら
  私に平福城をください」
 「よかろう」

 鉄山にとっては
 平福城を弾四郎にやるくらいのことは、何ンでもなかった。
 彼は今では、お菊さえ自分の所有(もの)であるなら
 ほかに欲しいものは、一つもないとまで、思い詰めていた。
   
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
「町坪(ちょうのつぼ)弾四郎、こいつが悪いヤツなんですわ!」
なんか、昔の『ウィークエンダー』という番組で
ざこば師匠がパネルを持って言っている姿が想像できそうですね。
とにかく、この“悪いヤツ”がもっと悪いことをするんですわ!
それは来週以降といたします。

【2012/03/27 05:26】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、舟橋聖一著『白鷺記』から
“お菊井戸の伝説”を見ていきます。
姫路城主であった小寺則職(のりもと)のもとで働いていたお菊は
その後どうなったか。さっそく見ていきます。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 姫路城主におさまった勝利者青山鉄山のもとで
 お菊は再び働く身となる。
 それは鉄山が、お菊を衣笠の情婦とは知らなかったからであるが
 鉄山とすれば、たとえお菊が、小寺派の廻し者であっても
 彼女を側へ置きたかったであろう。
 置いて彼女を自由にしたかったろう。
 鉄山は何もかも承知の上で。

 お菊もまた、ひそかに懐剣の鯉口をきって
 鉄山の臥床(ふしど)へはいることもたびたびだったのではないか。
 鉄山が荒々しくお菊の帯をときすてる時
 彼女の素肌近くには、鉄山に一服盛るべき毒薬が
 秘められているような場面もあったのではないか。

 お菊は鉄山の家来、町坪(ちょうのつぼ)弾四郎にも言いよられるし
 佐用郡の平福城主の平福平内にも挑まれる。
 お菊とすれば、自分を見る男という男が
 みな自分に惚れるような気がしていただろう。
 たしかにお菊は、垢ぬけていて、万人の男に愛されるような
 男好きのする顔かたちだったにちがいない。
  
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
お菊はかなりの美女だったのか?
じゃあ、『番町皿屋敷』
(本当は『播州皿屋敷』というべきなんだろうけど)
でお菊を演じる女優は美しくなきゃいかんよね。
これから、お菊を演じる女優があまり美しくなかったら
思いっきりツッコミ入れてやりましょう。
違うかな。アハハハ

【2012/03/20 08:02】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、舟橋聖一著『白鷺記』から
“お菊井戸の伝説”を見ていきます。
先週にひき続き、背景説明ですね。
さっそく見ていきます。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 お菊は何者かというと
 出雲の尼子家の家臣寺本障子之介の長女で
 障子之介の死後、母と妹二人を伴って
 諸国行脚の旅に出るうち、赤穂の船宿で、母が発病
 間もなく落命したので、姉妹三人が途方にくれている時
 その船宿へ泊り合せた衣笠が気の毒に思って世話を焼いた。
 妹二人は、室津の船遊女になり
 お菊一人姫路へ伴われて、衣笠の愛をうけるが
 その後衣笠の推挙で小寺家の女中になる。
 これがお菊の前身である。
 
 妹二人と同じく、室津の船遊女になるよりは
 少々老人でも、小寺家の重臣の妾になることを望んだのだろう。
 もっとも衣笠は、豊職の遺臣として、鉄山支配の小寺家からは
 当時は遠ざけられていた失意の人ではあったが。
 
 出仕したお菊と若き城主則職との間にも
 単なる主人と女中の主従関係ばかりではなかったろうと推される。
 衣笠を忘れたわけではないが
 城主との恋も避けられなかったのではないか。
 すでに衣笠は老臣である。
 そして日常その身辺に仕えている若い城主が
 「お菊お菊」と親しみを示せば
 お菊としてもこれに傾かざるを得なかったろう。
 その則職が、鉄山らに殺されかかったのだから
 お菊はもとの情夫のもとへ
 その急を知らせる外はなかったのである。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
今回、お菊の身辺が明らかになりました。
武家の主(あるじ)が亡くなると、家族は
特に女は、遊女にならざるを得なかったようです。
お菊はそんな運命を逆手にとって、衣笠靭負介に接近し
城主・小寺則職とも親しくなっていきます。
来週もこの続きを見ていきます。

【2012/03/13 05:17】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週から、舟橋聖一著 『白鷺記(はくろき)』の
“お菊井戸の伝説”を見ていきます。
皆さんも「番町皿屋敷」の話は聞いたことがあると思います。
これから読んでいくのは、そのオリジナルのお話です。
舞台は“白鷺城(はくろじょう)”と呼ばれる姫路城。
もっとも、立派な城郭になる前の姫路城ですが。
さっそく読み進めていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 お菊井戸の伝説は、年代は室町時代末期の永正年間となっている。
 当時の城主は、赤松兵衛輔政則で
 これがいったん山名持豊の手に帰していた姫路城を奪回した。
 赤松奪回以前の姫路城はどんなふうであったかと言うと
 今の西の丸のある鷺山に所在し、城とは名のみ
 館の周囲に、塀や堀などをめぐらし
 東西に木戸をかまえた一曲輪程度にすぎなかった。
 政則がこれに移って、はじめて、本丸の形ができ
 やや城らしくなったが、それでも、天守閣などはむろんなかった。
 そのころの話であるお菊の井戸が、その後変遷して
 白鷺城に至るまで、保存に耐えたかどうかもすこぶる疑問である。
 
 この赤松政則が
 文明元年、新たに置塩城を築いてそこへ移ったので
 代りに一族であった小寺伊勢守豊職(とよもと)を目代として
 この地を守らしめた。
 永正年間になって、豊職が死んで、子政隆が立ち
 つづいて三代はまだ18歳の小寺則職(のりもと)が襲った。
 この則職の執権に青山修理亮鉄山なる男がいて
 主君が若いのを幸い、主家横領を企てたのである。 
 
 伝説お菊井戸の女中お菊は、この若い主君の世話をつとめていた。
 ある年の春、鉄山らは増井山の桜見物に、主君則職を誘い
 酒宴のさ中に、酒にチン毒を混ぜてすすめ
 巧みに一命を奪おうとした。
 このとき、お菊が衣笠靭負介(みゆきのすけ)に急を知らせた。
 衣笠は、小寺伊勢守豊職の重臣であった。
 そのため、鉄山らの陰謀は水泡に帰したわけである。
   
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
どんな小説でも同じですが、まずは背景の説明が長々と続くんよ。
来週もこの背景説明が続きます。

【2012/03/06 05:48】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、山本有三著 『路傍の石』の番外編をいきます。
今日は、先週ちょっと触れた“おもしろい話”についてです。
さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
 (日露)戦争の終わった翌年
 イギリスのコンノート殿下が来朝された時に
 横須賀の鎮守府(チンジュフ)においでになったことがある。
 その歓迎会の席上で、おつきの武官が興奮して
 食卓をトーンとたたいた。それをご覧になった殿下は
 なぜ、そのようなことをするのかとたしなめられたが
 武官の説明を聞くと、殿下もまた
 トーンと食卓をたたいたということである。

 高貴の方の振るまいとしては、意外のことなので
 鎮守府長官がお尋ねすると
 最初にテーブルをたたいた武官が、引き取って語った。

「いや、いま接待の方に『ロシヤと戦っているあいだに
 日本にはどうしてストライキが起こらなかったのか』
 と聞いたところ、日本の海軍将校は、ストライキ
 ということばを、知らないので、私はびっくりしたのです。
 その将校の言われるには、日本にはそういうものはない。
 国難に際しては、日本人はいつも一致団結して
 そとに当たるのが習わしだというのです。
 われわれはこの答弁で、初めて日本がわかりました。
 日本の勝った原因が、はっきり、わかりました」

 近代ヨーロッパの歴史をかえりみると
 戦争にストライキはつきものである。国難に直面して
 ストライキの起こらない国は、ほとんどないと
 その武官は言ったそうである。
   
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
この頃のヨーロッパでは、他国との戦争が常だったので
戦う者も自己主張しなきゃ損っていう考えがあったんかね。
とにかく、幕藩体制を終わらせて新しい政治体制になった日本が
それから40年近くたって
ロシアなんて大国と戦うことになったんだから
一致団結しなきゃいかんかったんだろうね。

近々予想される中国との緊張関係においても
そういうことを、もう一度考えなきゃならないと思います。

今週で『山本有三著 『路傍の石』 番外編』は終わりです。
次は何を書こうかな。

【2012/02/28 05:18】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、山本有三著 『路傍の石』の番外編をいきます。
今週からは日露戦争後の話です。さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
「ロシヤの今日あるは、外交官の力ではない。銃剣の力である。
 極東問題は外交官のペンに任せておかないで
 銃剣の力で解決すべきである」

 ロシヤのある大臣は、かつて閣議でそう主張した。
 そして銃剣と大砲で、ついに日本をかたづけようとした。
 その結果がどうであったかは、今さら書く必要はないであろう。

 専制政治と、敗戦につぐ敗戦とは、ロシヤの内地に
 数え切れないほどのストライキを引き起こした。
 そして「独裁政治を倒せ」「戦争を中止せよ」という叫びは
 ペテルブルグやモスコーを初めとして、いたる所の街路にあふれた。
 電気はとまり、ガスは消え、多くの都市は暗黒となった。
 店はとざされ、学校の門は開かず、やとい人は主人の命令に従わなかった。

 これについて、おもしろい話がある。
   
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

ロシアの停戦後の状況について書いています。
(日露戦争は日本が勝って終結したのではなく、アメリカによる停戦です)
これがいわゆる“ロシア革命”に発展し、帝政は崩壊するんだけど
フランス革命と同様、先の指導者は家族も含めて皆殺しにされます。

娘がまだ小さい頃
『アナスタシア』というアニメ映画のビデオを観ていて
ラストが怪僧ラスプーチンと闘って、勝ってロシアに戻るシーンで
「彼女はロシアに戻ったら、レーニンに処刑されて死んじゃうんよ」
と言ったんよね。
娘は何のことだか分からなかったみたいだけど
「ひどいことを言ったかな」と、ちょっと反省しました。
※ アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ : ニコライ2世の第4皇女(末娘)。

“おもしろい話”は来週といたします。

【2012/02/21 05:34】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、山本有三著 『路傍の石』の番外編をいきます。
先週にひき続き、日露開戦についてです。
さっそく見ていきましょう。

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 日本に遼東半島を還付させておきながら
 厚かましくも、それを横どりし
 今度は朝鮮にまで食い入ってきたのだ。
 ロシヤにとっては、それは単に
 東洋に領土を広げるか否かの問題であるが
 日本にとっては、生命線をおびやかされることである。
 ロシヤのこの横暴な振るまいには
 日本国民はこぞって、いきどおっていた。
 吾一のような者でも、敵がい心に燃えていた。

 「ああ、とうとうやったな」
 日本が大ロシヤを向こうにまわして、奮然としてた立ち上がったことに
 なんとも言えない喜びを感じた。
 小さな者、圧迫されている者が、大きな者、のしかかってくるやつに
 たち向かっていくことに、限りない痛快を感じた。
 「おれも、もう少し年がいっているとなあ!」
 丁年にさえ達していれば、彼も戦地に行きたいと思った。
 何かしら、ドカン、ドカンと
 彼はぶっぱなしてみたい気もちでいっぱいだった。
  
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

薩長が幕府を倒さないかんと考えた要因のひとつに
“ロシアの南下政策”に危機感を感じたことが挙げられます。
あの頃から既に、仮想敵国は、黒船のアメリカや
巧妙に幕府に武器供与をしようとしていたフランスではなく
ロシアだと考えた人が、少なからずいたってことですわ。
それが年を追うごとに現実となってきて
この恐怖や憤りがどんどんふくらんできたようですね。

個人的な意見だけど、この頃と同じような状況が
近いうちに中国との間で起こりうるのではないか。
そう感じているのは私だけではないと思います。

【2012/02/14 05:28】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、山本有三著 『路傍の石』の番外編をいきます。
先週までとは違う部分にある記述です。
さっそく見ていきましょう。

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 「号外!号外!」
 往来へ出ると、勇ましい鈴のねが響いていた。
 家いえでは、軒さきに国旗を出し始めた。
 チョウチンを掲げる店も、だいぶあった。
 「とうとうやったな」
 電柱に張り出してある号外を見たら
 吾一はももの肉がびりびりとふるえた。
 日露開戦の号外だった。黒雲がとうとう、あらしを呼んだのだ。

 「ロシヤの今日あるは、外交官の力ではない。銃剣の力である。
 極東問題は外交官のペンに任せておいてはだめである。
 銃剣で解決するのが、はや道だ」
 当時、満州における撤兵問題がやかましかった時
 ロシヤの内務大臣は、御前会議でそう主張した。

 「いま世界を見渡して、大ロシヤ皇帝にたいし
 宣戦の布告をなしうるような勇敢な国があるとは思われません。
 こちらの態度さえ強ければ、陛下のお求めになるものは
 戦いをまじえずして、必ず達せられます。
 日本や支那が、とにかく、わが要求に従わないのは
 当方の態度に妥協の色が見えるからです。
 彼らをしてロシヤの命令をきかせるためには
 威圧以外に手段はございません」
 側近者はそう言って、皇帝をおだてあげた。

 国威がうわ向きになると、どこでも、こういう議論が幅をきかせる。
 ロシヤは北清事変に名を借りて、満州に出兵したが
 事変がかたづいても撤兵しない。満州から兵を引かないばかりでなく
 彼はそのどん欲の手を朝鮮にのばし
 無断で鴨緑江(オウリョクコウ)のほとりに砲台を建設した。
  
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

先週までの“条約改正”に続き、お題が“日露戦争”になりました。
司馬遼太郎の『坂の上の雲』という作品に
「当時の日本人は
 ロシアと戦争をしたら日本という国がなくなる、と
 かなり悲観的になっていた。
 正露丸という薬があるが、当時は“征露丸”といって
 ロシアを征するという、日本全体の希望が託されたものだった」
なんてネガティヴに書かれていたと記憶しています。

それに対して山本有三の書いたものは、かなり景気のいいものです。
やっぱり、当時のことを実際に知っている作家のものは違う。
実に興味深い。
来週もこの続きを見ていきましょう。

【2012/02/07 05:31】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、山本有三著 『路傍の石』の番外編をいきます。
著者のメッセージはさらに続きます。
さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 こういう非道な取り扱いを受けたのは、個々の日本人だけではない。
 日本の国家もまた、彼らの手によって同じ待遇を受けたのである。
 それは遼東(リョウトウ)半島を返さなければならなかったことだ。
 遼東半島を返さなければならなかったことだ。
 遼東半島は、明治27、8年の戦役において
 日本人が尊い血しおを流した所である。
 その正義の血しおにたいして
 清国(シンコク)政府は、同半島を日本にさし出したのである。
 それは国家と国家とが正式に取りきめた条約であった。

 しかるに、その戦争とはなんの関係もないはずの
 ヨーロッパの強大なる三国は、日本に親切なる忠告を寄せた。
 「東洋の永遠の平和」のために
 支那に遼東半島を返すようにというのである。
 今も昔も、常に東洋の平和を願ってやまない日本帝国は
 その忠告を受け入れないわけにはいかなかった。
 大きな犠牲を払って手に入れたものではあるが
 日本は涙をのんで、それを返した。

 ところが、その親切な忠告があってから
 わずか2、3年しかたたないうちに
 ロシヤは、日本人が血をもって占領した旅順口(リョジュンコウ)を
 口のさきだけで、うまうまとわがものにしてしまった。
 それから同じ忠告のなかまであったフランスは広州(コウシュウ)湾を
 ドイツは青島(チンタオ)を、それぞれ巧みに借り入れた。
 これを見たイギリスが、どうして黙っているはずがあろう。
 彼もまた威海衛(イカイエイ)にユニオン・ジャックをなびかせた。
 (アメリカがハワイを併合してしまったのも、同じ時代の出来事である)

 これが彼らのいわゆる「東洋永遠の平和」の道だったのである。
 これが支那を分割してはならないと、唱えた
 ヨーロッパの強国の、平和政策だったのである。
  
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

これまで4回にわたって見てきた話は
飲み屋で、安吉と吾一の担任である次野との会話で出た話です。
吾一の父親である愛川がどうして異人を殴ったか、という話から
明治中期の日本の置かれている現状について話が展開したものです。

今日は、このあとの記述もちょっと見てみましょう。

 「どうも立ちゃん(次野)は、すぐ興奮するからいけないよ」
 安吉は、新しく運ばれたトックリを取りあげた。
 「しかし、君、現在の日本を考えると、じつにたまらないじゃないか」
 「そりゃ、わたしだってくやしいよ。だが、くやしいからといって
  小さなこぶしを振りあげてみたところでどうするのだ。
  こいつは握りこぶしぐらいで、かたのつく問題じゃないからね。
  今のわたしたちには、まあ、げんこつを固める前に
  もっと固めなくちゃならないものがあると思うんだ」
 「はははは、とうとうおいでなすったな。
  おおかた、そう来るだろうと思っていたよ。
  安さんの言うのは、もっと実学を盛んにし、実業を発展させ
  もっと国力を・・・ってんだろう。もうわかったよ、わかったよ。
  ああ、酔ったなあ」

これは著者自身が熱くなってしまって、自分の書いたのを見て
「いかん、こんなこと書いてもうた」と思ったので
登場人物の次野が熱くなっていることにしてるんよ。
ここらへんは実に巧妙ですね。違うかな。アハハハ

【2012/01/31 05:44】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、山本有三著 『路傍の石』の番外編をいきます。
先週の続きです。さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 条約改正以前の日本には、こんなことはざらにあった。
 その最もひどい例は、ノルマントン号事件である。
 イギリスの船ノルマントン号がヨコハマを出帆して
 コウベに向かう途中、風雨のために
 キシュウ沖で暗礁に乗りあげ、沈没した事件があった。
 その船には、日本の乗客が23人いたが
 その日本人たちは、ことごとく溺死してしまった。
 お客がみんな死んでしまったくらいなら
 船員もひとり残らず、海底に沈んだものと、だれでも思うだろうが
 その時、船長以下
 イギリスの水夫26名は、つつがなく助かっているのである。

 汽船が沈没するような場あいには、船長や船員は最後まで船にとどまり
 まず、乗客を救助するのが本務ではないだろうか。
 よし、その乗客は、しがない三等船客であろうとも
 彼らだって同じ人間なのである。船賃もちゃんと払っているのである。
 しかるに、日本の乗客はひとりも助かることなく
 船長らだけ、ボートで逃げたということは
 いったい、何を物語るものであるか。彼らの目から見たら
 日本人の船客などはコモ包みの荷物に過ぎなかったのだろうか。
 そうだ。コモ包みの荷物として、置き去りにされてしまったのである。

 今から50年ほど前の日本人は
 目の青い人びとから、こういう扱いを受けていたのである。
 これは記憶しておかなければならない事実である。
  
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

この小説が書かれたのは昭和初期。
時代設定は明治中期だから、50年の隔たりがあります。
条約改正前のことなんて、みんな忘れてしまってたんでしょう。
今の人に「50年前は東京オリンピックを控えて希望に満ちた時代だった」
なんて言っても、ピンとこないと思います。
私も東京オリンピックの時は4歳だったので、ほとんど憶えてないんだけどね。

【2012/01/24 06:17】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、山本有三著 『路傍の石』の番外編をいきます。
先週の続きです。さっそく見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 そのころの日本では、外人がどんなに悪いことをしても
 外人をつかまえて裁判する権利がなかった。
 領事館に突き出してみたところで
 彼らはうちわ同士で裁判をやるのであるから
 ほとんど罪になるということがない。
 そして、あべこべに、日本のほうに苦情を持ちかけてくるのが
 いつも、きまったやり口だった。

 その時も一応は領事館にかけ合ったのだが
 鉄砲で撃った鳥は家畜ではない。
 家畜ならオリの中に入れておくのが当然だ。
 道路の上にいたものなら、野鳥に相違ない、と
 こんなそらぞらしいことを、恥ずかしくもなく、述べたてて
 不都合なのは日本人である。
 旅行免状を持っている者に暴行を働くとは、野蛮な国民だ。
 そういう不届きな者にたいしては厳重に処罰を望む
 というのが、先方の要求だった。
  
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

これまでも書きましたが
この作品には小説の進行とは別に、このような“補足”が見られます。
それらを追っかけていくってのも実に興味深いと思うんよ。
それはこの時代の流れを学ぶことであるし
何よりも、著者のメッセージを読み取ることでもあるんだから。

これで導入部が終わり、本格的な“メッセージ”に入ります。
来週もお楽しみに。

【2012/01/17 05:32】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週から、山本有三著 『路傍の石』の番外編をいきます。
この小説の合間合間に
明治以降の日本をとりまく国際情勢について
著者の考えが述べられている部分があります。
それらを見ていきましょう。今日はその導入部分です。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 たまたま、その百姓やにい合わせた愛川は
 鉄砲の音を聞いて、びっくりしてそとに飛び出して見ると
 大きな西洋人が突っ立っている。
 しかも、その西洋人は、今撃ち殺したばかりのアヒルをさげて
 出かけようとするところだったので
 愛川は百姓といっしょになって、外人に抗議を申しこんだ。
 しかし、ひとこともことばが通じないから
 何を言っても、さっぱり要領を得ない。
 外人が何かしきりにほざいていたそうだが
 ちっとも、あやまるけしきがないので
 ふたりは、異人をぶんなぐってしまったそうだ。

 いくら西洋人だからといって
 家畜を鉄砲で撃つということがあるだろうか。
 飛べない鳥に筒さきを向けるなんて
 無慈悲なことがあるものではない。
 ところが、その外人はそんなことにとんじゃくなく
 日本人から暴行を受けたと言って、警察に訴え出た。
 そのために、愛川と百姓のふたりは、たちまち処罰された。
 そんなバカなことはない。
 不法なことをしたのは向こうなんだと言って
 ふたりがいくら抗弁しても、なんのかいもなかった。
 西洋人に対する手まえ
 ふたりはどうしても、罪に落ちなければならなかったのである。
  
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

この小説を読んだことのある人はご存知と思いますが
時代設定は明治中期。
上記の“愛川”というのは、この小説の主人公・吾一の父親・庄吾です。
ただ、これから紹介したいのは
この小説の本編ではなく“補足”の部分なので
頭の片隅にでも置いてくだされば結構です。
来週も続けて“補足”の部分を見ていきましょう。

【2012/01/10 05:27】 | 日本文学
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【mixiから転載】
今週も、芥川龍之介著 『藪の中』 を読んでいきます。
今日がこの作品の最後です。
殺された男本人の証言を続けて見ていきましょう。

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 妻はおれがためらう内に
 何か一声叫ぶが早いか、たちまち藪の奥へ走り出した。
 盗人も咄嗟に飛びかかったが、これは袖さえ捉えなかったらしい。
 おれはただ幻のように、そういう景色を眺めていた。

 盗人は妻が逃げ去った後
 太刀や弓矢を取り上げると、一箇所だけおれの縄を切った。
 「今度はおれの身の上だ」
 おれは盗人が藪の外へ、姿を隠してしまう時に
 こう呟いたのを覚えている。

 おれはやっと杉の根から、疲れ果てた体を起こした。
 おれの前には妻が落とした、小刀(さすが)が一つ光っている。
 おれはそれを手に取ると、一突きにおれの胸へ刺した。
 何か腥(なまぐさ)い塊がおれの口へこみ上げてくる。
 が、苦しみは少しもない。
 ただ胸が冷たくなると、いっそうあたりがしんとしてしまった。

 その時誰か忍び足に、おれのそばへ来たものがある。
 それはそちらを見ようとした。
 が、おれのまわりには、いつか薄闇が立ち込めている。
 誰か、その誰かは見えない手に、そっと胸の小刀を抜いた。
 同時におれの口の中には、もう一度血潮が溢れて来る。
 おれはそれぎり永久に、中有の闇へ沈んでしまった・・・。
  
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−

本人の証言と盗人の証言は整合性があります。
それに対して女の証言は・・・
なんて、現代国語の授業のような話はやめましょうね。
とにかく、男は自害したことになっています。
これは芥川流の女への配慮なんじゃないのかな。
って、自分の描いた登場人物に配慮することもないか。アハハハ

先週も書きましたが
来週から山本有三著『路傍の石』の番外編をいきます。
「最初から“番外編”ってなんなの?」なんて言わないようにね。
(困ったように)アハハハ

【2012/01/03 07:08】 | 日本文学
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